幸せな結婚というのは、どういう形から始められるのか。私の娘の頃、よく親戚の伯叔母たちが言ったのである。−娘になったらお気をつけなさいよ。どこで誰が見ているかわからない。あるいはこんなことも言った。−娘のいる家は、ふだんから御近所づき合いをよくしておかなければねえ。これは、昔の結婚の調査が、近所の聞き込みなどから始まったことを示す。今の恋愛結婚でもややこれに似たことはあると思うのは、自分の恋愛の相手が、他人にどう評価されているかを聞くことがある。それによって、相手への理解を深めたり、あるいは、今後も交際してゆくべきかとうかを判断する目安にする。たとえば、−あのひと、ほかにつき合っている相手はないのかしら。とか、−他人に迷惑をかけるような性格、自己中心的な行動の多い人間かどうか。などなど。そんなとき、友人から思わぬ答えの返ってくることがある。何人も何人もの異性経験があるとか、職場のハナツマミモノだとか。それが真実の場合もあるが、悪意があって、故意に悪い人間であるように耳打ちされたら、とんだ迷惑である。未婚の男女は、ふだんから、他人に憎まれないような心がけが大事ということかもしれない。これが男女共に一つの職場とか、同じ町、同じ学校というようなことだと、大体の相手の輪郭がわかるけれど、所も知らず、名も知らずから始まって、これぞと思う相手を、自分の結婚相手候補の中に追いこんでゆくためには、いろいろな方法がとられる。お互いに親同士が知り合いというような場合は簡単だが、そうでないと、まず、他人に本人の評判から聞いてみたり、役場で戸籍を調べたりということになる。私の生まれ育った東京では、地方からのひとが多いので、結婚調査のための興信所が発達し、私の母も私の見合い相手の何人かを、専門家によって調べさせた。母は気丈なひとで、興信所の調べだけでは足りず、兄の妻の候補者も、私の夫候補者も、皆、その出身学校の庶務課へいって、成績簿を調べてもらったり、担当の先生にお会いして本人についての質問をしたりした。私の見合いは、先方が紹介者と本人と、こちらは私と母とが、会食したのだが、兄の場合は、相手がその母親と百貨店で買物をしている姿をまず遠くから見るということに始まったと思う。私の友人には、歌舞伎座で観劇しているのを、あらかじめ席を教えておいて、相手とその母親が遠くから見るということをしたのもある。つい最近の週刊誌に、今、六十歳、七十歳代の夫婦が、その見合いの初めに、百貨店や劇場で、そっと見たという話が幾つか出ていておもしろかったが、勿論、その前に、写真は交換されていて、実物拝見というわけである。十四代将軍家茂は、和宮に子どもが生まれないので、側室をおくことにしたが、その相手をきめるのに、家茂と和宮が、部屋に並んでいて、候補者の娘が、高島田に振袖姿で、その部屋の前の庭を横切ってゆくのを、二人であれこれ話しあって、選んだのだという。和宮は降嫁の条件に、側室をおかないことを申し出ていたのだが、将軍にはやはり世継ぎが必要ということで、妥協したのであろう。
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